店の扉をあけると、どこから現われたものか、一匹の猫が滑り込んできた。
少し距離をおいて、媚びたような目でフレアを見上げている。
「外は寒いからね、いいよ、お入り」
猫はフレアに決して近付き過ぎない距離を保って、のそりと奥へ入って来た。フレアが店に置いてあった板を割れた窓に打ち付けるのを、猫は店の奥から眺めている。それが済むとフレアは猫に構わず、さっきいれようとして中断された暖かいお茶を、ポットに注いだ。ふうっと大きく息を吐いてどっかと椅子に腰掛ける。
「あの看板も直さなけりゃならないね」
誰にともなく言った。あるいは猫に言ったのかもしれない。
自分専用の古びたカップに茶を注いで、両手を温めるように添えると、急に生き返ったような気持ちになる。