フレアは一気に冷たくなったお茶を飲み干した。ぶるっと身体が震えた。
「何もかも忘れて幸せになりたかった。でもあたしにはその資格がない。それに、ここでアビを可愛がったりしたら、死んだあたしの子が不憫すぎるじゃないか。アビはあたしを嫌ってる。それが罰なんだ。それでいいのさ」
重い腰をあげてゆっくりと立ち上がると、膝掛けがずり落ちる。
「おっと」
あわてて掴み椅子においた。
「寒いから今日はもう店じまいだよ。お前、うちに一緒に来るかい」
扉の前で振り返ると、猫はのそりのそりと後をついて来た。
ギシッと鈍い音をたてて扉が開くと、一面の雪景色に沈みかけた夕日がきらきらと反射して、一瞬目がくらみそうになった。
フレアは寒さも忘れてしばし呆然とそれを眺めていた。