ププタン村に住むの殆どの人々は、雪を見た事がなかった。
冬の厳しい寒さも経験した事がない。
ある朝、一番早起きの村びとの嬌声で、窓を開けたすべての人間があっけに取られ、その真白に埋め尽された美しい情景を何も言えず見つめていた。手の平をかざす者、寒さに縮こまる者、作物をダメにされて罵倒を浴びせる者、反応はさまざまだったが、雪が村びとの心に深く影響を与えたのは確かだった。
古ぼけた看板にある「フーチの店」という文字は色褪せ、いまや完全に消えかけている。いつもはひっそりとしているその店は、ついいましがたまで防寒具を買いに来る人達でごった返していた。元々今まで寒さを知らなかった村なだけに、道具屋とは言え防寒具の用意もさしてない。