ついさっきまで薄明るかった空は、見る見るうちに夜の帳を降ろしていた。
アビは誰もいない事を確かめ、村長の家に向かって再び走り始めた。
村長の家まで一気に走り、誰にも会わずにその懐かしい木の扉を開ける。
サイナの部屋は二階だ。
庭には大きなブナの木がある。サイナを呼びに来た時、よくこの木に登った。
それがずっと昔の事のように思えるのが不思議だった。
アビは登りなれたブナの木のいつもの枝まで登っていくと、サイナの部屋の窓を覗いた。
サイナはベットに座って本を読んでいる。
木の実を一つ取って窓に向かって投げる。
コツン。
実が窓に当たるとサイナがびっくりして窓辺にやって来た。外はもう暗い。明るい家の中からはアビの姿は見えないようだった。