死はアビにとって身近なモノではなかった。
アビの中の死のイメージは、両親の死だ。もの心ついた時にはもう両親共がいなかった。両親の死を目の当たりに見た訳でもなく、ただ死んだと聞かされただけだ。それを聞いても悲しみはうまれなかった。死は死という事実でしかなく、アビの暮らしとは無関係な所に存在していた。
生まれて初めて対面した本物の死。
ついさっきまで生きていて自分と話をした人間が、突如としてこの世のどこからも消え去ってしまう。もう二度と話す事も出来ないし、笑い合う事もない。アビが初めてそんな死に直面したのは、ついこの前の事だった。
シェーラとは知り合ったばかりだったが、大きく包み込んでくれるような不思議な存在感でアビの心に深く住み着いていた。